ハニーン・アブドゥル・ハーリクは、ヨルダンの首都アンマンに住む、イラク難民の少女だった。
11歳で卵巣ガンになった。
助かる見込みは20%。
年端もゆかない少女が、このタイプのガンになること自体、普通ではあり得ない。
あり得ないことが、「湾岸戦争」「イラク戦争」以後のイラクでは頻発している、ということだ。
荒れてカサカサになった指先で、ハニーンは絵を描きつづけた。
一日でスケッチブック1冊を書き尽くしてしまうほどだった。
「絵描きになりたい。 う〜ん、カメラマンもいいなぁ」
死の間際まで、夢を持ち続けていたハニーン。
ハニーンの書き残した絵から、何枚かを刺繍にして、このキルトを作った。
余白には、日本のあちこちで出会った人たちに絵を描いてもらった。
テーマは「船の旅でハニーンに見せてあげたいもの」。
キルトの中で、ハニーンは自由で果てしない旅を続けている。
実は、このデザインのキルトは3枚ある。
1枚は、ハニーンと親しかった日本人スタッフの青年にさしあげた。
1枚は、これ。 完成したら、最期までハニーンを支援していた横浜の病院の人たちにさしあげる予定。
そして、もう1枚は、ハニーンの家族に手渡したいと思っている。
アメリカに移住した彼らに、いつ渡せるのか、はたして渡すことが出来るのか・・・わからない。
それでも、「ハニーンのママに」と思って縫っている。
キルトは、子どもの体を生かすクスリにはならない。
けれど、心を生かし、魂に寄り添うことは出来ると思う。
家族や親しい人たちと共に、祈ることは出来ると思う。
少なくとも、絵を描いた子どもの「人生の物語」を語り伝えることは、出来るのだから・・・。
どこかでハニーンのキルトに出会ったら、やさしい手でそっと触れてあげて下さいね。
やさしく、やさしく、ね。
それが、キルトを通してする、言葉のない「対話」だから。
やさしく、やさしく・・・・ね。